帝人グループでアラミド繊維の生産・販売を展開しているテイジン・アラミドB.V.(本社:オランダ・アーネム市、社長:ゲーテ・W.フレデリクス)は、このたび、ライス大学(Rice University、米国テキサス州ヒューストン市)などとの共同により、金属ワイヤーと同等の電気伝導性、および金属ワイヤーを凌駕し、グラファイト繊維に匹敵する熱伝導性(いずれも同重量比)を実現する、カーボン・ナノチューブ(CNT)*1 100%による繊維を開発しました。これらの性能はいずれも世界初のものです。
このたび開発したCNT繊維は、優れた電気伝導性および熱伝導性に加え、高い強度としなやかさを有しており、紡織用の繊維のように取り扱いが容易です。構造は、繊維軸に沿ってCNTが規則正しく配列されており、テイジン・アラミドが1970年代から展開しているパラ系アラミド繊維「トワロン」の紡糸法である湿式液晶紡糸法*2により量産することが可能です。
*1 カーボン・ナノチューブ(CNT):炭素原子が網目のように結びついて筒状になった物質で、直径は数ナノメートル(=10億分の1メートル)単位。高い強度、弾性率、柔軟性を持ち、優れた電気伝導性や熱伝導性を有することから、幅広い用途への応用が見込まれている。
*2 湿式液晶紡糸法:原料を強酸に溶かし、高分子材料が液晶状態(液体のような流動性を持ちながら、分子がある規則性を持って配列している状態)にあることを利用して紡糸する方法。これにより、繊維の分子を規則正しく配列させることができる。
今後は、このような特性を活かし、航空機や自動車のデータケーブルや電気通信ケーブルの軽量化に向けた銅線代替として用途開発を進めるほか、電子機器のアンテナや、放熱・冷却用途にも、CNT繊維の熱伝導性の寄与が期待されます。また、医療分野への応用についても、現在、研究機関とともに評価を進めており、さらには、エレクトロニクス機能を衣料と一体化させた「ウェアラブル・エレクトロニクス」分野への応用にも期待を寄せています。
ライス大学は、1990年代からCNT製造技術の開発、および実用化に向けた研究に取り組んできました。一方、帝人グループは、高機能繊維のポートフォリオを拡充する一環として、2000年代前半からCNT繊維の開発を進めており、ライス大学の研究内容に賛同して、2010年より共同研究を開始しました。このたび開発したCNT繊維の性能および製造技術の向上には、テイジン・アラミドの紡糸技術が大きく寄与しています。
この研究には、2009年にテクニオン-イスラエル工科大学(Technion-Israel Institute of Technology、イスラエル国ハイファ市)、さらに2010年には、アメリカ空軍リサーチ・ラボラトリー(U.S. Air Force Research Laboratory、米国オハイオ州デイトン市)が参画しており、それぞれが持つ知見と経験を活かすことにより研究が加速してきました。なお、このたびの共同研究成果に関する論文は、1月11日に発行された米国の有力科学雑誌「サイエンス(Science)」に掲載されています。
帝人グループは、既にグローバルで展開しているパラ系アラミド繊維「トワロン」「テクノーラ」、メタ系アラミド繊維「コーネックス」、炭素繊維「テナックス」、高機能ポリエチレンテープ「Endumax(エンデュマックス)」に加え、今後、CNT繊維を持つことにより、高機能素材のポートフォリオを一層拡充し、市場においてさらに優位なポジションを確立していくことを目指します。